ギークハウス岩手三陸大船渡

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有害鳥獣対策イベントを行う理由

住人の種延です。昼夜の寒暖差が激しくて絶賛引きこもり中です。

今回は鹿捕獲用の囲い罠を制作するイベントの企画背景について、鳥獣被害対策の現状などにも触れつつ書いていきます。

鳥獣被害の現状

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そもそもの鳥獣被害の現状ですが、農林水産省の専門の特設ページにわかりやすくまとめられています。

平成19年に鳥獣被害防止特措法が制定されて以来、かなり短い間隔でアップデートされていることからみても、国としても重要課題と位置づけられており、また現場からのニーズも相当高いということは容易に想像できますね。

単に農林水産業への被害が甚大というのもありますが、特に主戦場となっている国土面積7割を占める中山間地域においては、国土保全や水源のかん養といった多面的な機能の維持を担っている部分もあり、有害鳥獣による被害を放置しておくと、耕作放棄地の増加など、因果関係が直接数字には現れにくい部分にも影響が及んでおり、田舎部分ではなく下流の都市部においても無視できない問題となっているようです。

有害鳥獣問題の頭の痛いところは、端的に言えば有害鳥獣がめっちゃ増えてて猟師はめっちゃ減ってるということに尽きると思います。

環境省の調査によると、平成27年時点の推定個体数はエゾシカを除くニホンジカで中央値304万頭です。ニートの人口が約60万人なのを考えると実にニートの5倍の鹿が日本にいるわけですね。頭数だけでなく、生息域の拡大が見られており、大船渡でもイノシシが北上してきたりシカやハクビシンの中には越冬する個体もいるということでした。

現場で頭数調整を実際に担うのは狩猟免許を持った猟師さん達ですが、昭和50年代の50万人から大きく減少しており、現在は20万人に届かないくらいで横ばいとなっています。近年は取得者は増加傾向にありますが、これは平成19年度に狩猟免許区分を改定し、鳥獣被害に悩む農家の防御策として網と罠を分けて免許を取りやすくしたことが功を奏しているようです。しかし、一方でアグレッシブに頭数調整を担う存在であるところの猟師さんにあたる銃免許保持者は減少を続けている状況ということであまり楽観視もできないようです。

国の目標としては2023年までにシカについては約155万頭にまで、およそ半減させるというものですが、現場には猟師の減少・高齢化という大きな課題があります。頭数調整政策は他にも目視による頭数調査の限界や生態系保護と駆除のバランスの難しさという問題もあるのですが、それ以前に増加が果たして食い止められるのかという段階にあるのではないかと思います。

国・自治体が取り組むジビエ推進とICT化

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国の方針で各地方自治体も被害防止計画の策定や対策実施隊の設置を進めており、自治体レベルで鳥獣被害の制度を整えている他、民間レベルでも電気柵の設置を推進などが行われています。

資料での事例紹介でも見られる通り、ジビエ推進狩猟のICT化が取り上げられています。

ジビエ推進による食肉利用ですが、捕獲された鳥獣の食肉利用が1割程度という実態もあり、食肉として地域資源活用するモデルを組み立てようという動きですね。経済的な動機付けだけでなく、殺処分した上でそのまま廃棄する心理的抵抗感から考えても意義のあるものだと思います。

ICT化についてですが、個人レベルでもIoT化が可能になったので、鳥獣対策にそれを取り入れていこうというものです。例えば、罠のスマート化で、設置すればするほど見回りなどの管理コストが発生してしまうジレンマを抱えているわけですが、罠の作動と同時に通知したり、任意のタイミングで遠隔で確認できるようにすればこれらのコストが削減できるわけですね。

このあたりは66歳の猟師がIchigojamと赤外線センサで猪の成獣のみを捕獲する罠を作った例などを見ると分かる通り、工夫次第で罠の作動条件なども調整できるのが大きなメリットです。シングルボードコンピュータやセンサ類、IoT向けSimに至るまで安価なものが出回っているので、個人レベルでかなり高度なこともできるようになっています。それでいて、技術的なハードルもそこまで高いわけでもなく、どれくらいかというと無職の僕でもまあ簡単なもの作れそうだなという感じです。

技術が実践できる開かれた場を作りたい

さて、というわけで鹿捕獲用の罠を作成して解体して食べるまでを試みる今回のプロジェクトというのは、上記のような鳥獣対策モデルをストレートに実践するということになります。

もちろん、基本的には自分たちで進めていくのですが、外からも人が来て欲しいと考えるのは交流促進というもう一つの地域課題とうまくミックスできて、より良いものになるのではないかと考えるからです。

まず、専門家でもない自分たちで行うので、罠のシステム開発やジビエ調理などに興味や知見を持った人が来てくれると単純に非常に助かることが挙げられます。

ただ、主催者側の都合のみというわけでもなく、例えばこれらのコミュニティが多くある首都圏では、これらを実践できる場がなかなか無いという事情も少なくありません。大船渡が都市圏でなかなかできないことを実践できる開かれた場になるというのはそうした良いマッチングが生まれる可能性が期待できます。

命を扱うことと狩猟そのものへの強い興味について

また、ICTやジビエ技術者以外でも狩猟そのものに興味を持つ人がたくさんいると思っていて、どちらかと言うと狩猟という命を扱う体験こそが今回最重要視しているところだと思います。

狩猟免許受験者や講習受講者などは増加傾向にあるように、狩猟への興味は決して低いわけではありません。つい先日もそのような大学生が遊びに来てくれたのですが、狩猟に興味を持つ人に共通した認識というのは、命に感謝して食べるという観念は広く普及している一方で、命を主体的に奪うという決して避けられない工程を自分がよく知らないことへの違和感からそれを知りたいというものがあるのではないかと思います。

Amazonのプライムビデオにカリギュラという番組がありますが、狩猟に興味を持っているお笑い芸人の東野幸治さんが猟師のエゾシカ猟に同伴し、実際に解体して食べるまでを行うものです。カリギュラという企画自体が地上波では流せない番組を作るということもあって、狩猟現場から鹿の解体工程まで生々しく描写されています。

番組中で猟師の服部さんが実際に食べるために生き物の命を奪い、生き物を食べ物に変える、「行為者」としての自覚というようなものを語っていました。

狩猟への興味というのは、言い換えればこの行為者として生きる感覚を知りたいというものに近い気がしています。何度か都内でも動物を絞める食べる場面には居合わせているのですが、やはり心的な負担は大きく、食べ物に感謝するというのは言うのは簡単だけど体現していくのは難しいなと感じるところです。

このあたりの感覚はそれほど特殊なものでもないんだろうなとも思っていて、例えば『これから始める人のための狩猟の教科書』の冒頭に、先輩ハンターに狩猟の魅力を聞いてみる項目がありますが、「本能的な欲求」という言葉が出てきます。これはヒトの根源的願望は数万年間の狩猟採集生活に適応したものであるという心理学分野の考え方からしても自然な気がします。

まとめ

長くなりましたが、以上が有害鳥獣対策として、鹿の捕食を試みる理由となります。

鹿捕獲は2月くらいまで試みる予定ですが、その第一弾として囲い罠を制作するイベントを2017/11/25(土)〜26(日)まで行います。参加は以下のFacebookイベントより、遠方の人はギークハウスに宿泊も可能ですのでよろしくお願いいたします。

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